中村クリニック 泌尿器科

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腎不全

腎臓の働きとは?

腎臓とは何かと聞くと、「尿を作る臓器」であるという答えがよく返ってきます。もちろん間違いとはいえないのですが、もっと正確に表現するならば、腎臓の主な機能は「体液の恒常性を維持する」ことにあります。血液に含まれる老廃物を排出し、代わりに人体にとって不可欠な電解質やさまざまな物質を保持することによって、この目的を達成しているわけです。そして尿が作られるのは、その結果ということになります。また一方では、腎臓は重要な内分泌臓器であることも知られています。

腎不全とは?

さまざまな定義がありますが、ここでは腎臓が役に立たなくなり体液の恒常性が維持できなくなった状態と考えます。すなわち、腎機能のうち糸球体濾過率(GFR)に代表される、排泄機能の低下により特徴づけられた病態ということができます。
そしてその発現の仕方から、急性腎不全と慢性腎不全に分けて考えていくこととしましょう。これら2つには時間経過に差があるとともに、いくつかの大きな違いがあります。

急性腎不全とは?

腎前性、腎性、腎後性の大きく3つに分けて考えます。

・腎前性急性腎不全

急性腎不全のなかで、もっとも多くみられます。さまざまな原因によって腎血流量が低下し、個々のネフロンあたりのGFRが低下した状態をさします。ただし、原則として腎そのものは障害されていないので、再吸収、分泌などの能力は保持されています。

・腎性急性腎不全

種々の原因により腎組織が障害され、GFRが低下した状態です。腎機能そのものの障害であるといえます。これはさらに原因別に分類されますが、実際には急性尿細管壊死が大部分(約95%)を占めています。

・腎後性腎不全

腎臓より下流に閉塞機転があり、無尿または乏尿を呈した状態です。なお、正常な腎臓は1つで十分恒常性を保つ能力があるので、左右どちらか一方だけの尿路が閉塞しても、通常、腎不全に陥ることはありません。

症状や検査所見は?

ここでは主に急性尿細管壊死について説明します。典型的には最初は乏尿で発症し、これを乏尿期とよびますが、尿量の減少が目立たない場合もあります。尿量の減少により水分が蓄積して、浮腫、体重増加、高血圧、肺水腫、うっ血性心不全などを生じ、窒素性老廃物の排泄が悪くなると、尿素窒素(BUN)が増加します。その結果、悪心、嘔吐、食欲不振などの消化器症状が出現します。さらに、体液の恒常性が維持できなくなるため、さまざまな電解質異常が出現します。体液過剰により低Na血症となり、K、H+、Pの排泄障害によりそれぞれ高K血症、代謝性アシドーシス、高P血症が生じます。とくに高K血症は心臓に対する負担が大きく、不整脈や心停止を起こすこともあります。
さらには、エリスロポエチン産生障害や高窒素血症に起因する貧血(腎性貧血)や、ビタミンD活性化障害や高P血症に起因する低Ca血症も起こります(高濃度の窒素は赤血球に対する障害性があり、過剰のリンはCaと結合し結果として血中Ca濃度を低下させるのです)。数日~数週間が経過すると、今度は一転して多尿気味になり、これを利尿期とよびます。この時期には尿中にNaやKが喪失されやすく、低Na血症や低K血症をきたしやすくなります。

治療は?

腎前性や腎後性の場合、その原因疾患の治療が重要です。腎性(尿細管壊死)では、高K血症など緊急を要する場合には適切な対応が必要となります。6.5mEq/l以上の高K血症では、速やかにグルコン酸Ca、炭酸水素Na、イオン交換樹脂の投与やグルコース・インスリン療法などを行いK濃度を下げなければなりません。また、体液過剰に対しては、前日の尿量を参考に、水およびNa、Kの摂取を制限します。ただし、利尿期には脱水とNa、Kの不足が起こりやすいので、この点は十分に注意する必要があります。栄養管理も非常に重要です。乏尿期には高カロリー・低蛋白が原則であり、熱量40kcal/kg、蛋白量0.3~0.5g/kg程度が目安となります。利尿期後半から回復期には、蛋白量を0.7g/kg程度にします(これらのkgはすべて標準体重を基準にします)。なお、経過中に一定の基準を超えた場合には、血液浄化療法を導入します。急性腎不全の多くは可逆性ですので、いったん導入しても利尿期に入れば数日で離脱できることが多いようです(慢性腎不全との大きな違いです)。導入の時期を逸すれば、腎機能の回復が期待できなくなり予後が悪くなるため、保存的治療が奏功しない場合には速やかに導入することが大切です。

慢性腎不全とは?

慢性腎不全とは、進行性かつ不可逆性の腎機能低下が数カ月以上継続し、体液の恒常性維持が不可能になった病態をいいます。一般的には、GFRが30ml/分以下、血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上で継続するものをさす場合が多いようです。原因疾患はさまざまですが、慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症などが代表的です。最近では、糖尿病性腎症によるものが増加しています。

症状や検査所見は?

腎機能に応じた症状が出現しますが、病期分類とあわせてみると理解しやすいでしょう。慢性腎不全(その前段階を含む)は、大きく4期に分類されます。第2期までは臨床上は大きな異常はみられず、尿量はむしろ増加傾向になりますが、第3期からは尿量が減少し、電解質異常とともにさまざまな症状がみられるようになります。

治療は?

症状は進行性ですので、いずれは血液浄化療法が必要となることが多いのですが、少しでも進行を遅らせるためには原疾患の治療とともに食事療法や薬物療法が重要となります。慢性腎不全を進行させる因子としては、高血圧と高蛋白食が重要ですので、これらをいかにコントロールするかが鍵となります。
食事療法は、低蛋白、低Na、高カロリーが基本であり、乏尿期にはK制限も必要となります。薬物療法は、主にACE阻害薬やアンギオテンシン・受容体拮抗薬が用いられます。これらは全身の血圧を下げるとともに糸球体濾過圧を下げ、圧による糸球体へのダメージを軽くする効果があります。
血液浄化療法は、腎機能が悪くなり、いくつかの基準を満たした場合に適応となります。慢性腎不全の場合、いったん血液浄化療法を始めるとその後、生涯にわたって続けることになります。

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