中村クリニック 泌尿器科

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尿閉

排尿困難と尿閉

排尿困難とは、尿意を感じ排尿を試みるが、排尿時に困難を覚え排尿開始までに時間を要したり腹圧を加える必要がある状態をいいます。排尿困難がさらに進行すると膀胱内に貯留した尿が排泄できなくなります。尿閉とは、膀胱内に尿が多量に貯留し、尿意があるにもかかわらず排尿できない状態をいいます。尿量が極端に減少して排尿がみられない状態である無尿と鑑別することが臨床的には重要です。尿閉は突然起こる急性尿閉と残尿量が徐々に増加して起こる慢性尿閉とに分けられます。また、まったく排尿できない完全尿閉と、残尿が多いが一部排尿できる不完全尿閉とに分類することもあります。臨床上では急性完全尿閉と慢性不完全尿閉が重要です。

1)急性尿閉

急性尿閉とは、膀胱内に尿が充満しているにもかかわらず、急に排尿がまったく不可能になった状態のことをいいます。膀胱排尿筋は正常な場合が多く、膀胱容量の増大とともに恥骨上部の疼痛、強度の不安感が生じ冷汗をみることが多いです。前立腺肥大症を有する患者が多量に飲酒した場合(前立腺尿道の急性浮腫および尿道排尿筋の活動低下によると考えられている)や、抗ヒスタミン薬を含む総合感冒薬を服用した場合にみられることがあります。

2)慢性尿閉

慢性尿閉とは、徐々に下部尿路閉塞が進行し、それに伴って残尿が多くなり膀胱は尿が充満した状態になり、尿意は感じなくなって尿が少しずつ漏れる状態です。この失禁は奇異性または溢流性尿失禁とよばれます。放置すると上部尿路内圧が上昇し腎不全に陥る場合があります。また、排尿困難を生じるような薬剤の多剤併用により徐々に残尿が増大し慢性尿閉や腎不全になることもあります。患者は排尿困難に気づかず、尿失禁のみ訴えることもあるので注意が必要です。

3)尿閉の随伴症状

尿閉の状態では、通常、患者は500ml以上の尿が膀胱内にあると尿意を訴え下腹部の膨隆や緊満を認めます。尿閉では多くの場合、膨隆した下腹部を手で圧迫すると痛みが強くなります。尿意があるのに排尿できないことによる苦痛、不安、緊張などにより、頻脈、血圧上昇などがみられます。また、尿の膀胱内停留により腎盂腎炎を併発している場合は発熱や腰痛が認められます。  慢性不完全尿閉の場合は、膀胱内圧が尿道圧を超えて尿漏れ、すなわち奇異性または溢流性尿失禁の状態となります。

4)尿閉の原因

1. 下部尿路の通過障害によるもの

下部尿路通過障害の代表的な疾患は前立腺肥大症です。前立腺は膀胱と尿道の間にあり、後部尿道を取り巻くように存在する臓器です。通常は50歳代から前立腺の肥大が始まり、60歳前後から症状が現れます。

2. 膀胱の神経障害によるもの

膀胱を中心とする下部尿路を支配する末梢、脊髄または高位中枢における神経系が何らかの原因で器質的に障害されたものです。糖尿病や脊髄損傷などに起因する神経因性膀胱があげられます。糖尿病では知覚麻痺するため膀胱容量が時には1,000mlに及ぶことがあります。

3. 薬剤によるもの

排尿障害をきたす薬剤には、膀胱利尿筋の収縮力を減弱させる薬剤(副交感神経遮断薬、平滑筋抑制薬、βアドレナリン刺激薬)や膀胱出口の圧を高める薬(αアドレナリン刺激薬やβアドレナリン遮断薬)があります。もっとも多いのは、副交感神経遮断作用の強い胃腸薬と複合感冒薬中の抗ヒスタミン薬や解熱・鎮痛薬です。

4. 心因性異常によるもの

手術後の患者で、ベッドで寝たまま排尿することに慣れていなかったり、尿器から漏れてしまうのではないかと心配して尿が出なくなることがあります。

5. その他の原因によるもの

前立腺肥大症などの下部尿路通過障害のある患者では、寒冷、飲酒、性交などを契機に急に尿閉をきたすことがあります。また、手術後や膀胱鏡検査施行後では疼痛や緊張のために腹圧がかけられずに尿閉になることがあります。

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