中村クリニック 泌尿器科

JR川崎駅西口よりミューザデッキにて徒歩2分

尿失禁

尿失禁とは?

尿は腎臓で作られ尿管内を通過して膀胱に流れ込み、膀胱内にある程度の尿が溜まると尿意を感じて体外に尿を排出します。排尿を意図しないまま尿が漏れ出る状態を尿失禁といい、一方、排尿を自分の意図した通りコントロールでき、尿失禁のない状態を尿禁制といいます。尿失禁の病態と分類を理解するためには、下部尿路の解剖と生理を知っておくことが重要になります。

排尿のメカニズム

尿排出および蓄尿に働く筋肉は、神経により収縮・弛緩のバランスが調節されています。一般に末梢神経は、意識しなくても自動的に働いている自律神経と自分の意志で働きをコントロールすることができる体性神経に分けられます。さらに自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。膀胱・尿道に分布する末梢神経は、交感神経が下腹神経、副交感神経が骨盤神経、体性神経が陰部神経とよばれます。下腹神経が活動すると膀胱の筋肉は弛緩し、膀胱と尿道の移行部の尿道括約筋(内尿道括約筋)は収縮します。そのため蓄尿の働きをします。骨盤神経が活動すると膀胱は収縮して、尿排出の働きをします。陰部神経は外尿道括約筋を調節しています。外尿道括約筋は、蓄尿期に膀胱からの尿流出を阻止するもっとも強力なストッパーの役目をしており、排尿しようとすると外尿道括約筋は反射的に弛緩し、尿道は開きます。これらの末梢神経はさらに脳にある排尿中枢により支配されています。排尿中枢は蓄尿期には膀胱が収縮してしまわないように末梢神経を抑制し、排出期にはそれぞれの神経が協調的に働くように調節をしています。

自律神経受容体(レセプター)

自律神経を伝わってきた信号により、神経終末部よりホルモンが分泌されます。分泌されたホルモンは筋細胞表面にある受容体(レセプター)を刺激し、その結果、筋肉が収縮ないし弛緩します。膀胱にはアセチルコリン受容体(Achレセプター)とβアドレナリン受容体(βレセプター)があり、内尿道括約筋にはαアドレナリン受容体(αレセプター)があります。排尿障害の治療には主にこれらのレセプターを刺激ないし遮断する作用のある薬剤が使用されています

尿失禁の分類

1)腹圧性(緊張性)尿失禁

咳、笑い、クシャミ、重い物を持ったときなどのように、急に腹圧が加わった場合に起こる尿失禁のことをいいます。老婦人や多産婦にみられることが多く、女性の尿失禁のほとんどは腹圧性尿失禁によるものです。女性は尿道が短く括約筋の発達が男性に比べて低く、出産により尿道閉鎖システムの脆弱化や肥満が加わるため、腹圧性尿失禁を生じやすくなります。

2)真性尿失禁

尿流出のストッパーである外尿道括約筋が働かず、尿を膀胱に溜めることができず、体動や腹圧などと関係なく絶えず尿が漏れてしまう状態を真性尿失禁といいます。原因としては、尿道括約筋の損傷があげられます。具体的には泌尿器科的・婦人科的手術など医原性に括約筋を損傷した場合多く認められます。

3)切迫性尿失禁

尿意がきわめて強いため抑制がきかず、排尿の準備ができる前に尿が漏出してしまうものをいいます。尿意が強いにもかかわらず1回尿量は少なく、多くは頻尿を合併しており、過活動膀胱(OAB)の場合にも認めることがあります。
運動性切迫性尿失禁と知覚性切迫性尿失禁とに分けられます。
典型的な運動性切迫性尿失禁は脳卒中後の患者さんにみられます。脳の排尿中枢の障害により膀胱の蓄尿機能障害が起き、尿貯留が少量でも排尿反射が起こり、膀胱が収縮してしまうため失禁となる状態のことをいいます。このように膀胱が勝手に収縮してしまうことを無抑制収縮とよびます。治療には膀胱を弛緩させるAchレセプター遮断薬(抗コリン薬)やβレセプター刺激薬を使用します。
一方、急性膀胱炎など下部尿路の急性炎症や前立腺肥大症など、膀胱の知覚が過敏になっているため必要以上に排尿反射を引き起こし、尿失禁を生じる状態を知覚性切迫性尿失禁といいます。

4)溢流性(奇異性)尿失禁

尿排出障害により膀胱内に尿が充満し、膀胱内の圧力が尿道抵抗に打ち勝つと尿が尿道から漏れ出てくる状態をいい、両者の圧が平衡に達するまで漏出します。したがって常に大量の残尿を認める状態が持続しています。前立腺肥大症や尿道狭窄など下部尿路通過障害をきたす疾患に認められます。前立腺肥大症に対しては内服治療や内視鏡による前立腺切除(TURP)を行い、尿道狭窄に対しては内視鏡による内尿道切開術などが行われます。

5)反射性尿失禁

脊髄損傷などの重症脊髄疾患により尿意が消失した患者にみられます。脳の排尿中枢による抑制路が遮断されてしまうため、排尿反射により失禁が起こります。はっきりとした尿意がない点が切迫性尿失禁と異なります。また、膀胱収縮時に外尿道括約筋が弛緩せず尿道が閉鎖したままになることが多く、膀胱内の圧力が異常に高くなり、腎臓に尿が逆流するために腎機能障害が起こりやすくなります。その場合は、抗コリン薬により膀胱内圧を下げ、カテーテルで残尿を排出する自己導尿治療が行われます。

6)尿道外尿失禁

尿道以外の場所から尿が漏れ出る状態をいいます。尿管が膀胱の正常な位置に開口していない尿管異所開口や、膀胱外反症、尿道上裂などの先天性奇形でみられます。また、骨盤内手術、とくに子宮がん手術によって生じた膀胱腟瘻、尿管腟瘻などのように尿路と腟に交通を生じる場合もあります。

■側註

【過活動膀胱(OAB)】 overactive bladderの略。「尿意切迫感を有し、通常これに頻尿および夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うことがあれば伴わないこともある状態」と定義される症状・症候群。

ページの先頭に戻る